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相続のあれこれ (文:元代表社員 横須賀 博)

投稿日2000.01.01

相続・事業継承サムネイル

「会うは別れのはじめ」とか、「生者必滅」といいますが、人はいつまでもこの世に生き続けることはできません。ちょっと厳しい表現ですが、この現実を認識することができれば相続問題は大方クリアしたことになります。

すなわち、人は社会に生き続けた証としてその果実の清算が必要となる訳ですが、それらは遺族の役割として位置づけられています。しかし生前に遺族への気配りとしてそれらの清算に関与したり、指導することはできます。遺言や生前贈与等々・・・。
したがって、相続問題は相続税の申告の要否とは関係なく別途に考えるべきなのです。
財産が多ければ多いように、少なければ少ないように、そして、債務超過の場合にはそれ相応に相続の放棄や限定承認等の手続きにも熟知することが必要なのです。

私は昭和31年に会計事務所(税理士法人横須賀・久保田の前身)を開業しましたが、相当数の相続事案を処理してきましたし、何度か遺言執行人にもなりました。
また、東京地方裁判所の民事調停委員としても、20年の間、紛争解決の一翼を担ってきましたが、その多くはスムーズに処理され何の紛争も生じませんでした。しかし、中には相続人の間での話し合いがまとまらず、骨肉の争いとなり訴訟事案として裁判という公開の場に移された案件もあります。

そこで相続にあたって特に留意しなければならないいくつかをご紹介し、それが他山の石となれば、と念じています。

大多数の親は、うちの子供達に限って争い等はあり得ないと信じています。しかし、いざ相続が発生したときには、親はこの世にはいない訳ですから、何の発言もできません。兄弟とは親の生きているうちが兄弟であって、親がいなくなればその瞬間に他人となる、と考えることが賢明です。

「お母さん、お兄ちゃんがお菓子くれないの。」と言う妹の叫び声に「お兄ちゃん、妹と半分個しなさいよ。」とのお母さんの一声、そのお母さんは今はいない・・・それが相続なのです。

そんなことから、例えば、土地建物を兄弟同士の共有名義にしたり、親の土地の上に長男の家が建っている場合等は、相続時に分割や処分を巡って、兄弟間で意見が合わずに紛争が生ずる原因となります。そこで、その紛争を防止するためにも、兄弟間や親子間の共有名義等は極力避けた方がよいと思います。

かつて、相続人である未亡人から、「うちの子供達は齢は若いが兄弟の仲もよいので将来ともに仲良くするために、土地建物の相続財産はすべて共有名義にして欲しい。」との強い要請を受けました。
しかし、その子供が成年に達するにしたがい、その子供達から「その財産を各人の個人所有にして欲しい。」と要求されるようになりました。しかも、数物件の土地の共有持分の変更を伴う分割の依頼でした。

一物件の土地の共有持分を、その持分に応じて分割する場合は相互に等価である限り贈与の問題は生じませんが、数物件の土地の共有持分を変更すると土地の価額が異なる場合があり、その場合は贈与の問題が生ずることになります。
すなわち、一度分割協議によって決定した財産を分割のやり直しによって取得したとしても、最初の分割によって取得した財産とはならないからです。

したがって、この場合、贈与の問題が生じましたので、やむなく共有名義の土地の一部を処分し、現金で分配したという経験があります。このことは兄弟間にあっても信頼関係を維持するためには一定の距離を必要とするということです。

土地等については共有にするよりも、相続人のうちの誰かがその土地等を取得し、その土地等を取得した相続人個人がその代償を金銭等で支払うという、代償分割を利用すれば遺産分割が容易となります。

中小同族法人の株式の評価は、清算価値を基準として評価するためにどうしても上場企業に比べて割高となります。このため、計画的に年数をかけて株式を生前贈与する方法や事業承継税制等を利用して相続人が株主となることも一案です。

また、その株式を相続するにあたっては、その法人の後継者がその株式を取得し、その結果として過半数を保有することが企業の安定につながることを念頭においてください。

事業の後継者が長男であることから、先代社長である父親から長男がすべての財産を相続し、その後、長男は子供に恵まれないまま死亡。子供がいない夫婦の場合、夫に相続が発生した時の相続人は妻と夫の母親が相続人になります。この場合、長男の財産の大部分はその妻のものとなってしまいます。そこで、長男の妻と長男の母親との間で紛争が生じ裁判になったという事案を調停委員として処理したことがあります。

なおこの場合、仮に夫の母親も既に亡くなっているときは、妻と夫の兄弟姉妹が相続人になります。
夫が相続財産のすべてを妻に相続させたいときには、あらかじめ遺言書を作成し、その旨を記載することが必要です。その場合には、兄弟姉妹には遺留分がありませんので遺留分侵害の恐れはありません。
相続にあたっては遺言書があれば、紛争を未然に防止することができますが、できれば、生前に遺言書の内容を相続人間で了解していればよいでしょう。

そして遺言書を書く場合には、遺留分を侵害しないことが大切ですが、遺留分を侵害しても遺留分減殺請求がなされなければそのままとなります。

なお、遺言書には遺産の分割内容や遺言執行人等が記載される公正証書遺言が有効で確実です(公正証書は公証人役場にその原本が残るため紛失、偽造等の恐れがありません。)が、書替えの可能性があるときは自筆証書が簡単です。ただし、開封するには家庭裁判所の検認が必要です。
また、遺言執行人には通常の成人なら誰でもなれます。

うちの主人に限って、浮気等あり得ないと信じていたのに、いざ相続が発生したときに、ご主人が認知した子が現れたというケースがあります。
今まで相続事案として処理した数百件のうち約3%程度は、非嫡出子が実在していたことになります。

現在、私生児を認知する方法は、区役所へ出向いて認知の書類に署名し、三文印を押して提出すれば妻の承諾がなくてもOKと至極簡単にできます。日常生活では戸籍謄本等を見る機会が少ないため私生児の存在に気付かないんですね・・・。

相続が発生したときの未亡人への分割財産は、単に資産としての価値があるというよりも、できれば日銭の入る財産にすべきです。
それは評価の高い財産を相続しても年老いては無用の長物、それよりも日銭さえ入れば、いつでも孫に小遣いを与えられるという喜びに浸ることができる訳ですから・・・。

相続問題でもめることが多いということを前提に、生前に時間をかけて分割内容を家族会議等で周知しておいたり、生前贈与等の手法によって問題を解決しておくことが大切です。

配偶者への生前贈与等の手法として、婚姻期間が20年以上の場合、2,000万円の住宅取得資金、または2,000万円相当の住宅土地そのものを贈与しても課税されないという特典があることも知っておくべきでしょう。(贈与税の配偶者控除)

子や孫へは、住宅取得資金、教育資金、結婚・子育て資金の贈与を上手に利用して、生前贈与対策をすすめる必要があります。

相続財産のうち土地の評価を減額する目的で、貸ビルや貸マンションを建築すれば節税につながるとして建築業者等から建築を勧められる場合もあります。
しかし、貸ビルや貸マンションの経営には、それなりのノウハウが必要であり、節税のみにとらわれると大怪我をする場合があります。
したがって、相続人がそれらの事業を望む場合にのみ行うべきと考えます。

相続税は所有財産に課税されるわけですから、事前にその税額を予測することは可能です。

そこで納税資金が不足することが明らかである場合、物納を考えねばなりません。その場合には、相続が開始される前に物納すべき土地の測量や境界線を確定しておくとよいでしょう。
相続が開始されてから隣との間で境界線を確定することは、相続人にとってはかなりの精神的・金銭的な負担となります。
また、同じ土地でも貸地を物納する場合には、原則として地代の額は財務省が定めた一定水準を超えていることも条件となりますので、この点も考慮しておくことが必要です。

相続対策として、相続税を安くするという考えも大切ですが、事前に、生命保険等に加入して納税資金を確保することも必要です。
そしてこのことが相続人に対する思いやりであり、ひいては相続人の心を豊かにすることになるのではないでしょうか。

それでは最後に、私の経験のなかから相続人間でもめた実例を示しましょう。


その1

相続人である未亡人と娘姉妹との間では、遺産分割の話し合いも「お母さんの考え方でいいよ。」と合意はするものの、その翌日には、その合意内容が簡単に取消されてしまう。そんな話し合いが、何度か繰り返されました。
それは姉妹間では合意するものの、それぞれのご主人の意見が分割内容に介入するためです。

そんな家族会議を重ねるにつれて、姉妹間の感情は高ぶり、ついには、「私は高卒で終わったけれどもお姉ちゃんは私大まで出してもらったじゃないの。」とか、「私の結婚式は教会で質素にあげたのに、あんたはホテル○○で豪華にやったじゃないの。」とエンドレスの争いとなってしまいました。
未亡人にしてみれば長女は相続財産の形成には寄与しないものの、長い間お父さんを看病してくれたことからいくらかでも余分にと考える。一方、妹の方は六法全書を前面に出してくる。

そんな家族会議に立ち会った私は、未亡人と相談の上やむなく時の経過に解決の糸口を託しました。相続税の申告期限が相続開始後10ヶ月を用意しているのも、そんなことを踏まえてのことかも知れません。

その2

不倫中の女性が生んだ子供を、その相手の妻子ある男性が認知せずに亡くなってしまいました。勿論その男性の未亡人はその事実を知りません。
病名はガンです。そこで、その子供の母親は、相手の男性がガンの手術をした病院には摘出した細胞が保管されているということを知り、これをDNA鑑定に託したところ、「その子供は亡くなった男性の子供ではないという証拠は見当たらない。」との鑑定結果が得られ、それを基に裁判を提起しました。
未亡人側では「主人の子供ではないという証拠」の立証が不可能となり、結果的にはその子供を認知せざるを得なかったということもありました。

その3

遺言書には公正証書遺言をはじめ自筆証書遺言、それに秘密証書遺言があります。

公正証書遺言や秘密証書遺言が証人2名を必要とするのに比し、自筆証書遺言は、証人を必要としないばかりでなく、作成費用もかかりません。反面その証書の紛失や偽造の心配があるため、身元の確実な人に預けておくこと等が重要です。
それに、相続が発生すれば開封するためには家庭裁判所の検認という手続きを必要とします。

私はある相続で遺言執行人に指定され、その遺族より遺言執行の依頼を受けました。
遺言書を作成するにあたっては被相続人から事前の相談もなく、遺族より「遺言書は弁護士と相談して作成したようだ。」との言葉を信じ遺言書の内容を熟知せぬまま遺言執行人を承諾しました。

ところが遺言執行人になって遺言書を見るとその内容は次のようになっていました。

 遺言書

(1) 私の相続財産の相続分を次のとおり定める。
 (ア) 長女
 (イ) 孫(長女の子)
 (ウ) 孫(長女の子)
以上の3名には私の×××株式会社の株式の3等分及び私の個人財産のすべての3分の1を遺贈する。

(2) 相続人長男・次男・次女・三女の4名には遺留分として、現金、預金、有価証券等の流動資産を4等分して遺贈する。なお、右の遺留分が法定の額に不足する場合は、その分を長女ら3名が負担する。

(3) 妻については、長女ら3名に扶養を託するので、妻には相続分はないものとする。

私は、この遺言書を熟読した結果、次のように解釈しました。

本遺言書中の(1)には「以上3名には私の個人財産のすべての3分の1を遺贈する」とあり、3分の2については本遺言書には定められていない。しかし、この遺言書はそのように読むべきではなく、長女ら3名にすべての財産の3分の1ずつを遺贈すると読みとるべきであること。

その理由は、
(ア) (1)において、被相続人の遺産の中の主要部分を長女ら3名に遺贈するとあること。
(イ) (2)において、「なお、右の遺留分が法定の額に不足する場合は、その分を長女ら3名が負担する。」とあること。
(ウ) 加えて、(3)には、「妻の扶養は長女ら3名に託す。」とあること。
これらから、遺産の全部を長女ら3名に遺贈するから、妻の扶養を長女ら3名に託したものと考えられること。

以上のことから、(1)に定められた分については長女ら3名に各々3分の1を遺贈すると解釈すべきものと考え、そのように執行したが、結局は紛争となりこの遺言書どおりには実行されませんでした。

この原因は、遺言書の作成を弁護士に相談したと言っても、何をどのように相談したのかが不明であり、専門家を軽視したためにもたらされた結果と判断されます。
したがって、相続にあたっては相続事案をより多く処理している弁護士や税理士等の専門家の知識を活用すべきです。

なお、以上の遺言書の解釈は、最高裁判所の判例を踏まえた結果です。

最高裁判所 昭和58年3月18日判決 集民第138号277頁
「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探求すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」

以上は私の経験の一部の披瀝にすぎません。相続をめぐっては、個別事情が優先されることは当然です何かの参考となれば。

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